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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)1602号 判決

甲事件原告兼乙事件被告

門田正美

右訴訟代理人弁護士

川勝勝則

甲事件被告兼乙事件原告

日本非破壊検査株式会社

右代表者代表取締役

所澤恭

乙事件原告

ニッピエンジニアリング株式会社

右代表者代表取締役

所澤恭

右両名訴訟代理人弁護士

福岡清

山崎雅彦

重国賀久

主文

(甲事件につき)

一  原告門田正美の請求を棄却する。

(乙事件につき)

二 被告門田正美は、原告日本非破壊検査株式会社に対し、金二二〇万六〇〇〇円と、これに対する昭和五一年一月一日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

三 被告門田正美は、原告ニッピエンジニアリング株式会社に対し、金三四〇万円と、これに対する昭和五一年八月三日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

(甲事件及び乙事件につき)

四 訴訟費用は、甲事件及び乙事件を通じて、甲事件原告兼乙事件被告門田正美の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(甲事件につき)

一  請求の趣旨

1 被告日本非破壊検査株式会社は、原告門田正美に対し、七九〇万円と、これに対する昭和五三年三月一日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告日本非破壊検査株式会社の負担とする。

3 仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告門田正美の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告門田正美の負担とする。

(乙事件につき)

一  請求の趣旨

1 被告門田正美は、原告日本非破壊検査株式会社に対し、二二〇万六〇〇〇円と、これに対する昭和五一年一月一日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

2 被告門田正美は、原告ニッピエンジニアリング株式会社に対し、三四〇万円と、これに対する昭和五一年八月三日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は被告門田正美の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

(甲事件につき)

一  請求原因

(給料、賞与請求について)

1 原告は、昭和四九年二月二一日、被告に雇用された。

2 被告は、原告に対し、給料として月額二〇万円を支払う旨約した。

3 昭和五二年一二月の原告の賞与は、三〇万円である。

4 ところが、被告は、昭和五二年一一月四日に何ら理由のない懲戒解雇の通知を発して、原告の就労を拒否し、昭和五二年一一月から昭和五三年一月までの給料合計六〇万円と、昭和五二年一二月分の賞与三〇万円とを支払わない。

(損害賠償請求について)

5 被告は、昭和五二年一一月四日、原告に対し、何ら理由のない解雇通知を発しただけでなく、次のような原告に対する名誉毀損行為をした。

(一)  被告は、昭和五二年一二月、別紙一のとおり記載した葉書を、被告関係者多数及び関係のない不特定多数人に発送し、もって、原告の名誉を毀損した。

(二)  被告は、昭和五三年一月、別紙二のとおり記載した葉書一〇〇通を、被告関係者及び不特定多数人に発送し、もって、原告の名誉を毀損した。

(三)  被告は、昭和五三年二月ころ、別紙三のとおり記載した葉書約一五〇枚を、光興業株式会社などの被告取引関係者多数及び関係者以外の不特定多数人に発送し、もって、原告の名誉を毀損した。

(四)  被告は、別紙四のとおり記載した通告書を、北陸銀行新宿支店、三菱銀行大森支店、富士銀行大森支店及び協和銀行大森支店に持参し、各銀行の支店長、貸付担当者などに示して、原告を誹謗し、もって、原告の名誉、信用を毀損した。

(五)  被告代表者所澤恭は、被告従業員に対しても、前記葉書記載の内容を発表・表示し、もって、原告の名誉を毀損した。

6 被告の前項の不法行為により、原告は次のような損害を被った。

(一)  原告は、何ら理由のない解雇通知を受けて、被告で働くことができなくなり、昭和五三年二月に退職せざるをえなくなった。原告は、被告の甘言に誘われ、将来のある北陸銀行を辞めて被告に就職したが、そこを何らの理由もなく辞めさせられたのであるから、五〇〇万円の損害を被った。

(二)  原告は、被告の前記の名誉毀損行為により、精神的打撃を受け、今後の職業選択に多大のマイナスを負わされた。これを慰謝するには、少なくとも二〇〇万円が支払われるべきである。

(三)  したがって、原告は被告に対して、損害賠償債権合計七〇〇万円を有する。

(結論)

7 よって、原告は被告に対して、合計金七九〇万円とこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五三年三月一日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二 請求原因に対する答弁

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因5の事実中、被告が原告主張のような葉書を発送したことは認めるが、その余は争う。

原告が被告の取引先等に被告の信用不安を吹聴したため、被告は、防衛対抗上の措置として、取引先に事情を説明したものである。

3  請求原因6の事実は否認する。

三 抗弁(給料、賞与請求に対して)

1  被告は、原告に対し、昭和五二年一一月四日到達の書面で原告を懲戒解雇する旨意思表示した。

2  懲戒解雇の理由は次のとおりである。

(一)(1) 原告は、昭和四九年七月一一日、被告振出名義の金額五〇万円の小切手一通を作成したうえ、同日、三菱銀行大森支店において現金化し、五〇万円を着服した。

(2) 原告は、昭和四九年八月一日、田中俊雄から、被告が同人に売却した建物の代金一一〇〇万円を受け取り、同日、内一〇〇〇万円を北陸銀行新宿支店に被告名義で預金したが、残金一〇〇万円を着服した。

(3) 原告は、昭和四九年八月二〇日、被告の現金五〇万円を着服した。

(4) 原告は、昭和五〇年一二月三一日、被告名義の金額二〇万六〇〇〇円の小切手一通を作成し、同日ごろ、北陸銀行新宿支店において現金化し、着服した。

(5) 以上の行為は、被告の就業規則五二条五号(「会社の金品等をみだりに私消し、または許可なく持ち出したとき」)の懲戒解雇事由に該当する。

(二)(1) 原告は、上司である五十嵐洋総務部長にことごとく反論対立し、誠実にその職務を遂行しなかった。

(2) 五十嵐総務部長が、昭和五二年二月二八日、原告に対し、「天野さんの退職願を受理しないように」と社長からの指示を伝えたところ、原告は右指示を実行しなかった。

(3) 原告は、昭和五二年四月一九日、会社の組織を全く無視して、被告代表取締役所澤恭宛に、五十嵐洋氏の言動是正について(厳重警告)と題する書面を提出した。

(4) 原告は、昭和五二年九月初旬、五十嵐総務部長の指示を全く無視して、昭和五二年度決算書の作成作業に協力せず、その業務を遂行しなかった。

(5) 原告は、昭和五二年九月一六日、五十嵐総務部長に、「外部の人に俺をでたらめというとは何事だ」、「腕の一本や二本折って警察に行く事は何でもない」旨申し向けて、同部長の胸を小突いて暴行を加えた。

(6) 五十嵐総務部長が、昭和五二年一〇月二一日、従業員都丸孝に対し、解雇通知書を手渡したところ、原告は、翌二二日、「都丸孝社員に関する解雇通知について」と題する書面をそえて、右通知書を返却し、上司の指示を無視した。

(7) 以上の行為は、就業規則五二条一〇号(「正当な理由なく会社の指示命令に従わず、または諸規則に違反したとき」)、一一号(「会社の秩序、風紀を乱す行為があったとき」)に該当し、特に前記(5)の行為は同条一三号(「役員または会社の従業員に対し、暴行、脅迫を加えたとき」)にも該当する。

(三)(1) 原告は、昭和五二年四月ごろから同年一〇月ごろまでの間に、同業者、取引先及び被告従業員に対し、「金融機関、大手取引会社等から(取引)のストップがかかり、会社は危なくなる……」、「私が被告を退社したら、取引銀行から見離され、資金繰が出来なくなってこの会社は間違いなく倒産に追いこまれるから、早々に取引関係を整理縮少した方が得策だ。」、「人事関係が円滑に行っておらず、近い時点ではほとんどの社員が退職するだろう。」、「私の判のある手形はまず間違いはないだろうが、私の判を押さなくなったらまず不渡りになると思ってくれ……」などの全く根拠のないことを述べ、被告の信用を毀損した。

(2) 以上の行為は、就業規則五二条八号(「会社の信用を著るしく傷つけたとき」)に該当する。

四 抗弁に対する認否

抗弁2は争う。

抗弁2(一)(1)ないし(3)記載の金員は、原告が被告から住宅資金として借り受けたものである。

抗弁2(一)(4)記載の金員は、被告の接待用に購入したクラブ会員券の購入代金である。

(乙事件につき)

一  請求原因

1 原告日本非破壊検査株式会社(以下「原告日本非破壊」という。)は、理化学器機による検査修理等を目的とする会社であり、原告ニッピエンジニアリング株式会社(以下「原告ニッピエンジニアリング」という。)は、理化学器機による検査業務の設計、企画、施工等を目的とする会社である。

2 被告は、原告日本非破壊の経理責任者として、原告日本非破壊及び同社の系列会社である原告ニッピエンジニアリングの金銭出納、銀行預金の引出し・管理、社長印の保管等の業務を担当していた。

3 被告は、その権限を越えて、保管している原告両社の金員合計五六〇万六〇〇〇円を、自己の用途に供する目的で、次のとおり、横領した。

(一) 被告は、昭和四九年七月一一日、原告ニッピエンジニアリング名義の金額二五〇万円の小切手一通及び金額五〇万円の小切手一通と、原告日本非破壊名義の金額五〇万円の小切手一通とを作成したうえ、同日、三菱銀行大森支店において現金化し、金三五〇万円を着服した。

(二) 被告は、昭和四九年八月一日、田中俊雄から、原告日本非破壊が田中に売却した建物の代金一一〇〇万円を受け取ったが、同日、内金一〇〇〇万円を北陸銀行新宿支店に原告日本非破壊名義で預金しただけで、残金一〇〇万円を着服した。

(三) 被告は、昭和四九年八月二〇日、原告日本非破壊の現金五〇万円を着服した。

(四) 被告は、昭和五〇年一二月三一日、原告日本非破壊名義の金額二〇万六〇〇〇円の小切手一通を作成し、同日ごろ、北陸銀行新宿支店において現金化し、金二〇万六〇〇〇円を着服した。

(五) 被告は、昭和五一年八月二日、原告ニッピエンジニアリングの現金四〇万円を着服した。

4 よって、原告日本非破壊は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償金(予備的に不当利得金)二二〇万六〇〇〇円とこれに対する最後の不法行為日の翌日である昭和五一年一月一日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告ニッピエンジニアリングは被告に対し、不法行為に基づく損害賠償金(予備的に不当利得金)三四〇万円とこれに対する最終の不法行為日の翌日である昭和五一年八月三日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 請求原因2の事実は認める。

3(一) 請求原因3は争う。

(二) (請求原因3(一)ないし(三)について)

被告は、原告日本非破壊に就職する際、住宅ローンとして金員を借り受ける約束があったので、右約束に基づき、住宅購入資金として五〇〇万円を受け取ったものである。

(三) (請求原因3(四)について)

被告は、原告日本非破壊の取引先関係者などの接待用に使用するため、大成興業株式会社のクリスタルクラブの会員券を購入し、その購入代金に二〇万六〇〇〇円をあてたものである。

(四) (請求原因3(五)について)

被告は、原告ニッピエンジニアリングから、四〇万円を借り受けたものである。

第三証拠(略)

理由

第一(甲事件につき)

(給料、賞与請求について)

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  抗弁1の事実は、(証拠略)により、認められる。

三  そこで、抗弁2(懲戒解雇の理由)について検討する。

1(一)  (証拠略)を総合すれば、抗弁2(一)(1)ないし(4)の事実を認めることができる(ただし、原告は、田中俊雄から受け取った建物売却代金一一〇〇万円のうち一〇〇万円を、昭和四九年七月一六日、同年六月一五日に受け取った仮払金の返済として北陸銀行へ入金し、同年八月一日には、売買代金のうち一〇〇〇万円を入金し、結局売買代金のうち一〇〇万円を入金せずこれを着服している。)。

(二)  原告は、抗弁(一)(1)ないし(3)の金員は、住宅資金として被告会社から借り受けたものである、と主張し、原告の供述中には、右主張に沿う部分もある。

確かに被告代表者尋問の結果によれば、被告会社代表取締役所澤恭(以下「所澤社長」という。)は、原告を雇い入れる際、住宅を買う頭金程度を貸してもよい旨約束した事実が認められる。しかしながら、証人石川啓助の証言、被告代表者尋問の結果、及び、弁論の全趣旨によれば、右約束は借入れ時期、返済時期・方法、利息等につき具体的な定めをしたものではなく、原告が実際に前記金員を被告から受け取ることにつき、所澤社長は事前にも事後にも承諾した事実はないこと、また、前記金員は、帳簿上貸付金ではなく仮払金として処理されていた事実が認められ、右認定の事実に照せば、前記金員は、原・被告間の合意に基づき支出されたものではなく、原告が無断で被告会社の金員を自己の住宅資金に充てたと認めるのが相当である。したがって、原告の前記供述部分は信用できないし、乙第三二号証の二の右主張に沿う記載部分も信用できない。

また、乙第三三号証は証人石川啓助の証言及び被告代表者尋問の結果によれば、前記金員の支出が問題とされた後に、原告により一方的に作成されたものと認められるから、乙第三三号証をもって、原・被告間に住宅資金に関する具体的な合意が成立したと推認できるものではない。更に、乙第三七号証及び第四一号証の一には、原告に対し五〇〇万円の貸金があるとの記載がみられるが、証人石川啓助の証言及び被告代表者尋問の結果によれば、右記載が行われたのは、五〇〇万円の仮払金が発見された後、税金申告の決算書作成上、五〇〇万円を貸金と取り扱ったためである、と認められるから、右記載をもって、原告主張のような事実があったと推認することはできない。

(三)  原告は、抗弁(一)(4)の金員は、被告会社の接待用に購入したクラブ会員券の代金である旨主張し、原告供述中には、右主張に沿う部分がある。

なるほど、(証拠略)によれば、前記の金員は、原告がクリスタルクラブに入会する際の諸費用にあてられた事実が認められる。しかしながら、(証拠略)によれば、被告会社には、すでに取引先の接待に利用する店が存在し、原告が取引先を接待することはなかったこと、所澤社長は、被告会社の接待に利用するためクリスタルクラブへ入会する旨の報告を受けたことがないこと、前記金員は、被告が休みに入った昭和五〇年一二月三一日付をもって作成された小切手を現金化したものであるとの事実が認められ、右事実を総合すれば、前記クリスタルクラブ会員券は、被告会社の接待用に購入されたものではなく、原告個人の遊興のため、前記金員をもって購入されたと認めるのが相当である。したがって、原告の前記供述部分は、信用できない。

(四)  更に、原告は、所澤社長は帳簿を確認しているから、仮払金として原告に金員が支出された事実を知っており、これを認めている旨供述している。

しかしながら、(人証略)によれば、所澤社長は、帳簿の内容を一々確認することはなく、原告に多額の仮払金が存在することを知らなかったと認められるから、原告の右供述部分は、信用できない。

(五)  また、原告の供述には、原告は、従業員に対する給料の前貸しや下請に対する貸付を決定する権限を有していたとの趣旨の供述部分がある。

しかしながら、被告代表者尋問の結果によれば、従業員に対する仮払金は、所澤社長の口頭による了承ないし出金伝票等の書類上の決裁をえていたと認められ、原告が仮払金等の支出を決定する権限を有していたとは認められないから、原告の右供述部分も、信用できない。

(六)  (証拠略)によれば、被告会社が原告を業務上横領で告訴したところ、東京地方検察庁は、嫌疑不十分と起訴猶予とを理由に、不起訴処分にした、との事実が認められるが、右事実は、前記(一)の認定を何ら妨げるものではない。

(七)  他に前記(一)の認定を覆すに足る証拠はない。

2  (証拠略)によれば、被告会社の就業規則五二条五号は、懲戒解雇の理由の一つとして、「会社の金品等をみだりに私消し、または許可なく持ち出したとき」と定めている、と認められる。

3  してみると、前記1(一)で認定した事実は、被告会社の就業規則五二条五号所定の懲戒事由に該当するから、その余の解雇理由について判断するまでもなく、被告の行った懲戒解雇は適法と解される。

四  したがって、被告の抗弁は、理由があるから、雇用関係の存続を前提とする原告の給料(なお、昭和五二年一一月一日から同月四日までの間の原告の給料については、右期間中原告が就労したとの事実も、右期間中原告が就労できなかったのは被告の責に帰すべき事由によるとの事実も、主張・立証されていないから、理由がない。)及び賞与請求は、失当である。

(損害賠償請求について)

五  原告は、何らの理由もなく被告会社を辞めさせられたから、五〇〇万円の損害を被った、と主張している。

しかしながら、被告の行った懲戒解雇が何らの理由もないと認めるに足る証拠はなく、かえって、前記のとおり、右懲戒解雇は適法と認められるから、原告の右主張は理由がない。

六  (名誉毀損について)

1  (証拠略)を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(一) 原告は、昭和五二年一一月四日に解雇通知を受ける前から、被告会社従業員や下請会社従業員らに対し、被告会社が潰れる旨広言していた。

(二) 昭和五二年九月ごろから、原告に対する仮払金の処理が問題とされた。その結果、所澤社長は、仮払金名下で原告に支払われた金員や原告が保管する証書、印鑑等の返還を求める旨記載した別紙四の通告書を作成し、同年一〇月二四日、原告に右通告書を手渡した。

(三) 更に、被告会社は、右通告書を社内に掲示した。

(四) 原告は、昭和五二年一一月四日に解雇通知を受けた後も、取引先あるいは下請会社に対し、被告会社が潰れる旨広言し、下請会社等から、被告会社に対し、確認の連絡が入るといった状況を生じた。

(五) そこで、被告会社は、昭和五二年一二月、別紙一の葉書を印刷し、取引先、下請会社及び取引銀行等の被告会社関係者に対しのみ、右葉書を二〇〇枚ないし二五〇枚ほど発送した。

(六) なお、被告会社は、他の会社から右葉書と同趣旨の書類が送られてくることを時々経験していた。

(七) 更に、原告は、原告が銀行へ行って被告会社は潰れると言えば、被告会社は潰れる、としばしば発言していたので、所澤社長は、別紙四の通告書を持参して、取引先の銀行へ赴き、原告の発言が理由のないことを説明した。

(八) ところが、原告は、昭和五三年一月に入って、被告会社四日市出張所営業課長であった相坂一人とともに、名古屋地区の被告会社得意先の訪問を始めた。

(九) 右事実を知った被告会社は、原告と相坂との言動等については一切責任を負わない旨記載した別紙二の葉書を印刷し、名古屋地区の被告会社関係者に対し、右葉書を約一〇枚程度発送した。

(一〇) 昭和五三年二月になって、被告会社と同種類の検査業務を行う日東検査エンジニアリングという会社が設立された。原告は、右会社の株主となって右会社の設立に参加するとともに、右会社の専務取締役に就任した。右会社には、前記相坂を初め同じく被告会社を辞めた村上恵知(元千葉出張所長)、平川順一(元鹿島出張所長)らが入社した。そして、原告らは、被告会社の取引先を回り、被告会社は潰れるから、日東検査エンジニアリング株式会社を作った旨申し向け、同社と取引するよう勧誘した。

(一一) そこで、被告会社は、原告を含めた前記四名及び日東検査エンジニアリング株式会社と被告会社とは関係ない旨記載した別紙三の文書を印刷し、これを被告会社取引先に郵送した。

(一二) なお、被告会社の得意先のうち何社かは、日東検査エンジニアリング株式会社と取引を始めている。

2  前記1で認定した事実を前提に、被告会社の責任を判断する。

(一) 被告会社は、別紙一ないし三の文書を作成・発送し、右文書には、原告を不都合のかどを以て懲戒解雇した、原告を都合により懲戒解雇した、あるいは、原告を背任行為の廉により懲戒解雇したが、目下業務上横領で告訴中である旨の記載がみられる。

しかしながら、被告会社が右のような文書を発送するに至ったのは、原告の被告会社を誹謗する言動に対応するものであったこと、右文書の記載内容が真実に反するとは認められないこと、その言辞も特に不穏当とまで認められないこと、及び、右文書の発送先は被告会社関係者であって、被告会社関係者以外の第三者に発送された事実は認められないことを総合すれば、右文書の発送が違法とまで認めることは困難であり、他に右事実が違法であると認めるに足る証拠はない。

(二) 更に、所澤社長は、別紙四の通告書を持参して、取引先銀行へ赴いている。

しかし、所澤社長の右行動は、原告が銀行へ行って被告会社は潰れると言えば、被告は潰れる、との原告の発言に対応してとられたものであるから、右所澤社長の行動を直ちに違法と断ずることは、困難であり、他に右事実を違法であるとまで認めさせるに足る証拠はない。

(三) また、被告会社は、別紙四の通告書を社内に掲示している。果して、被告会社の右行為が違法とまでは認められない、と言いうるか、疑問が残る(右通告書を社内に掲示する必要性があったとの特段の事情を認めるに足る証拠はない。)。

しかしながら、被告代表者尋問の結果によれば、被告会社は、昭和五二年一〇月当時従業員六〇名程度の会社であったと認められるから、右通告書記載の内容は、右通告書を見るまでもなく、社内に知られていたと推認できるし、また、原告は、昭和五二年一一月四日、横領等を理由に解雇通知を受けているが、前記被告会社の規模からすれば、右解雇通知を受けたこと及び解雇の理由は、被告会社内に当然知れ渡っていたと推認できるから、右通告書の掲示と原告の名誉毀損との間に相当因果関係を認めることは困難であり、他に右因果関係を認めるに足る証拠はない。

七  したがって、原告の損害賠償請求は、理由がない。

第二(乙事件につき)

一  請求原因1の事実は、当事者ら間に争いがない。

二  請求原因2の事実は、当事者ら間に争いがない。

三  (原告日本非破壊の請求について)

(証拠略)を総合すれば、被告は、昭和五〇年一二月三一日までに、合計二二〇万六〇〇〇円の金員を、自己の用途に供する目的をもって無断で、原告日本非破壊から着服し、もって、同原告に二二〇万六〇〇〇円の損害を与えた、と認められるから、被告は、原告日本非破壊に対し、二二〇万六〇〇〇円を賠償する責任がある。

右認定に反する証拠が信用できず、他に右認定を覆すに足る証拠がないことは、第一、三、1、(二)ないし(七)で説示したとおりである。

四  (原告ニッピエンジニアリングの請求について)

(証拠略)を総合すれば、被告は、昭和五一年八月二日までに、合計三四〇万円の金員を、自己の用途に供する目的をもって無断で、原告ニッピエンジニアリングから着服し、もって、同原告に三四〇万円の損害を与えた、と認められるから、被告は、原告ニッピエンジニアリングに対し、三四〇万円を賠償する責任がある。

右認定に反する証拠が信用できず、他に右認定を覆すに足る証拠がないことは、前記第一、三、1、(二)及び(四)ないし(七)で説示したところと同じである。

第三(結論)

以上の事実によれば、甲事件原告の甲事件被告に対する請求は理由がないからこれを棄却し、乙事件原告日本非破壊の乙事件被告に対する損害賠償金二二〇万六〇〇〇円及びこれに対する最終の不法行為日の翌日である昭和五一年一月一日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求、並びに、乙事件原告ニッピエンジニアリングの乙事件被告に対する損害賠償金三四〇万円及びこれに対する最終の不法行為日の翌日である昭和五一年八月三日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は、いずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林正明)

拝啓 厳寒の砌貴社益々御清栄の趣大慶に存上げます。

扨て 弊社業務部次長門田正美こと今回不都合のかどを以て昭和五十二年十一月四日限り懲戒解雇いたしました。依て今後弊社とは一切関係ありません。

尚同人の言動等につきましても今後当社は一切その責に任じませんので右念の為御通知申し上げます。

敬具

昭和五十二年十二月

〒143 東京都大田区大森北四丁目四番三号

日本非破壊検査株式会社

電話〇三(761)三五二一

(大代表)

解雇通知

拝啓 厳寒の砌貴社益々御清栄の段大慶に存じ上げます

扨て 今般弊社

本社業務部次長 門田正美

昭和五十二年十一月四日限り

四日市出張所営業課長 相坂一人

昭和五十三年一月十四日限り

右両名都合により懲戒解雇致しましたので両名の言動等につきましては以後一切責任に応じませんので左様御了承賜り度御願い申し上げます

右為念御通知申し上げます

昭和五十三年一月

日本非破壊検査株式会社

東京都大田区大森北四丁目四番三号

電話代表〈〇三〉

七六一―三五二一

日本非破壊検査(株)四日市出張所

三重県四日市市大井ノ川町一ノ十三 三鈴ビル七号

電話〈〇五九三〉

四五―二四四四

社員解雇に就て

拝啓 毎度御愛顧に預り有難く厚く御礼申し上げます

却説この度弊社経理担当社員門田正美を背任行為の廉により懲戒解雇いたしました

又同氏に組する左記の者も懲戒解雇しました

就ては之等の者は弊社と何等の関りも無くなりましたので御高承相成り度 尚彼等の弊社に対する誹謗等は意に介されないようお願い申しあげます

申すまでもなく非破壊検査は事業者は素より従業員特に技術員及び作業員の信用によって成り立っている事に鑑み弊社は益々規律を正し御信頼に応えたいと存じますので相変らずの御引立を賜りますようお願い申し上げます

敬具

門田正美(本社経理担当部長)

懲戒解雇(目下業務上横領で告訴中)

相坂一人(四日市出張所営業課長)

懲戒解雇

村上恵知(千葉出張所長)

懲戒解雇

平川順一(鹿島出張所長)

懲戒解雇

昭和五十三年二月

日本非破壊検査株式会社

代表取締役 所澤恭

顧問 飯田榮夫

殿

追伸 前記の者等を中核として新発足した日東検査エンジニアリング(株)も弊社と取引その他何等の関係もありませんので併せて御含みの程お願い申し上げます

再拝

通告書

門田正美 殿

1 金五百萬円(52・7・29振替伝票記載)

上記の金額は現在の処書類不備の為貸付金ではありませんので、早速清算返還して下さい。もし貸付金扱いにしたければそれ相当の公的に認められる書類を提出して下さい。

2 金弐拾萬六千円(50・12・31北陸銀行新宿支店)

金九拾七萬円(52・7・29振替伝票記載)

上記の金額は伝票上は仮払金になっていますが、会社はこれを横領と認定しますので、返還して下さい。

3 貴君が入社時に前任者より引き継いだ特別書類、別名現金、別名預貯金等の証書及びこれに付随する書類、印鑑を提出して下さい。

4 入社以来勤務中に発生した別名現金、預貯金及びこれに付随した書類、印鑑を提出して下さい。

5 貴君の管理下にあった住宅手当、会社の内規に関する書類及び印鑑、かぎ等を提出して下さい。

6 貴君には家賃補給の話はありませんので、52・8・1の伝票の六〇万円及び同じく8・31の五万円の振替は認めません。

上記の事項を通告日より一〇日以内に手続きを完了して下さい。

昭和五二年一〇月二四日

日本非破壊検査株式会社

代表取締役 所沢恭

昭和五二年一〇月二四日本人に直接社長より読み上げの後、本書を渡しました。

昭和五二年一〇月二四日

立会人 石川啓助

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